リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あいつ?」
「島野。この足、触ったろ」

唐突すぎるその問いかけに、誤魔化し方も判らず、明子はどうしたらいいのかと目を泳がせた。
あの雨の夜のことを思い出すと、それだけで明子の体に火がついた。


(怒って、るよね。やっぱり)


許すと言ってくれたけれど、やはりまだ許してはもらえないのかもしれないと、火照った体のまま戸惑を浮かべる明子の目に、牧野はバカと笑った。

「月曜までのことは、全部、許してやるって言ったろ。怒ってねえよ。触ったろ? あいつ」

明子の鼻の頭を突っつきながら、正直に言えと、牧野は屈託のない顔で笑った。
明子はそんな牧野を窺うようにちらりと見つめて、ごめんなさいと言いながら牧野の言葉を肯定するように頷いた。

「あいつは、女は足って言うヤツだからな。飯を食いながらでも、女の足を触ってやがる。ぜったい、あいつ好きだぞ、この足」

そんなことを言いながら、牧野はまた明子の太ももを撫でるように指を這わせた。
一瞬、その手を払いそうになったけれど、牧野に対する後ろめたさから、先ほどみたいに抵抗することもできず、明子は牧野の手に縋るように手を重ね置くことしかできなかった。


(ずるい)
(牧野さん)
(いじわる)
(牧野さん)


島野のことを持ち出して、こんな悪戯を仕掛けてくる牧野に、明子はずるいともう一度、胸の中で呟いた。
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