リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
午後三時を過ぎたころ。正面玄関に回って野木たちと社内に入った明子を、亜矢子が呼び止めた。
(朝の続きかなあ。もう、勘弁してー)
本日、もう何度目になるか判らない落胆のため息を零しつつ「なんでしょう」と、疲れた声で亜矢子と向かい合った。
「ちょっと……、いいですか?」
カウンターを出た亜矢子は、明子をロビーの片隅に袖を引くようにして連れて行った。
「先、行ってます」
野木の声が、背中からかけられる。
「牧野課長のこと、なんですけど」
明子のため息など気にする様子もなく、亜矢子はそう切り出した。
明子はやっぱりそれかと、もう一度、失望交じりのため息をついた。
どうしても、そのことで話がしたいと言うのなら、せめて退社後に呼び出してくれないかなと、うんざりする。
「それは……、仕事中に、どうしてもしなきゃいけない話ですか?」
「井上常務のお嬢さん、昨日から入院されたとか。結婚を約束していた牧野さんを取られたショックで。もしかしたら、自殺未遂なんじゃないかって」
そんな噂が流れてます。
そう付け足しながらも、真剣な顔つきで明子を見据える亜矢子からのその言葉に、明子は冷水を浴びせられたようなショックを受ける。
「妊娠しているんじゃないのかって、社内の女の子たち何人かが、そんなことも噂してます」
真っ直ぐな声に、明子は胸が苦しくなり、息が詰まった。
(倒れた?)
(自殺未遂?)
(妊娠?)
嫌な記憶が、明子の中で蘇っていく。
子どもができたとそう言って、立ち去っていった人の背中が脳裏に浮かんだ。
泣くことも詰ることもできず、ただ諦めるしかなかった人の背中が、浮かんだ。
嫌な汗が、背筋を凍らせていく。
(朝の続きかなあ。もう、勘弁してー)
本日、もう何度目になるか判らない落胆のため息を零しつつ「なんでしょう」と、疲れた声で亜矢子と向かい合った。
「ちょっと……、いいですか?」
カウンターを出た亜矢子は、明子をロビーの片隅に袖を引くようにして連れて行った。
「先、行ってます」
野木の声が、背中からかけられる。
「牧野課長のこと、なんですけど」
明子のため息など気にする様子もなく、亜矢子はそう切り出した。
明子はやっぱりそれかと、もう一度、失望交じりのため息をついた。
どうしても、そのことで話がしたいと言うのなら、せめて退社後に呼び出してくれないかなと、うんざりする。
「それは……、仕事中に、どうしてもしなきゃいけない話ですか?」
「井上常務のお嬢さん、昨日から入院されたとか。結婚を約束していた牧野さんを取られたショックで。もしかしたら、自殺未遂なんじゃないかって」
そんな噂が流れてます。
そう付け足しながらも、真剣な顔つきで明子を見据える亜矢子からのその言葉に、明子は冷水を浴びせられたようなショックを受ける。
「妊娠しているんじゃないのかって、社内の女の子たち何人かが、そんなことも噂してます」
真っ直ぐな声に、明子は胸が苦しくなり、息が詰まった。
(倒れた?)
(自殺未遂?)
(妊娠?)
嫌な記憶が、明子の中で蘇っていく。
子どもができたとそう言って、立ち去っていった人の背中が脳裏に浮かんだ。
泣くことも詰ることもできず、ただ諦めるしかなかった人の背中が、浮かんだ。
嫌な汗が、背筋を凍らせていく。