リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
いつまでも、逃げてばかりはいられない。
それは、明子にも判っている。
牧野の一存とは言え、会社の上の者たちにも、牧野の口から結婚の話が切り出されてしまっている。
ここ数日の様々な騒動を思い返せば、その話も瞬く間に、広まっていくに違いない。
想定外のことだったとは言え、牧野の家族とも思いがけず顔を合わせてしまい、明子の存在を認めてもらえた。
よかったと、穏やかな声でそう言ってくれたあのとき、息が詰まりそうなくらい、本当は嬉しかった。
何か判らない力によって、すべての物事が勢いをつけて突き進んでいた。
きっと、いつまでも今のような曖昧な関係を、ズルズルと続けているわけにはいかなくなるだろう。
今度は明子が覚悟を決めて、牧野との結婚を真剣に考えなければならないときが、目の前に迫っている。
まずは、牧野の存在を、きちんと家族に伝えなければならない。
でなければいつまでたっても、次の一歩が踏み出せない。
頭の中では、そう理解している。
だから、その覚悟ももうできたと、自分では思っていた。
けれど……。
明子は自分の中にある戸惑いや揺らぎを、ここに至って自覚した。
まだ、牧野との結婚に前向きになれない自分が、いた。
牧野を家族に合わせたくないと思っている自分が、いた。
また一つ、息を吐き出した。
(結婚)
(結婚)
(結婚)
(結婚)
(なんだかなあ)
(最近、この言葉に振り回されっぱなしね)
ほんの数日前までは、今の自分にはまったく縁のない言葉だと、そう思っていた。
なのに、ここ数日、毎日のように聞かされている。
今日に至っては、牧野にまで、結婚というその二文字を突きつけられてきた。
ため息が止まらない。
ふいに、美咲や幸恵たちの姿が、閉じた瞼に浮かぶ。
(あの子たちも、まだまだ、なにかやらかしそうね)
(なんだかなあ)
美咲や幸恵が、今日一日、どこでなにをしていたのか。
それを考えるだけで、明子は頭を抱えたくなってしまう。
さすがにもう、大人しくなってくれるかなと、そんなことを考えていた自分の甘さ加減に苦笑が浮かぶ。
明子はのろのろと手を伸ばし、自分の下腹部をゆっくりと摩った。
電話の途中から感じ始めた鈍痛は、毎月、この時期になるとやってくるものだった。
今夜か明日には、女に生まれたことを面倒に感じてしまうものが、始まるだろう。
起きられないほど酷い症状が出たことは、これまでないけれど、それでも軽い貧血や腹痛はある。
それに加えて今回は、今まで経験したことのない、軽い吐き気や胃痛のような症状がすでにある。
これが一過性のものなのか、これから続いていくものなのか。
それすらも判らない。
‐三十過ぎると、体がどんどん変わっていくわよ。
かつて、明子にそんなことを言った人がいた。
(あれは……、誰だったかしら)
腹部を温めるように撫でながら、この変化はそういうことなのかなと考える。
それは、明子にも判っている。
牧野の一存とは言え、会社の上の者たちにも、牧野の口から結婚の話が切り出されてしまっている。
ここ数日の様々な騒動を思い返せば、その話も瞬く間に、広まっていくに違いない。
想定外のことだったとは言え、牧野の家族とも思いがけず顔を合わせてしまい、明子の存在を認めてもらえた。
よかったと、穏やかな声でそう言ってくれたあのとき、息が詰まりそうなくらい、本当は嬉しかった。
何か判らない力によって、すべての物事が勢いをつけて突き進んでいた。
きっと、いつまでも今のような曖昧な関係を、ズルズルと続けているわけにはいかなくなるだろう。
今度は明子が覚悟を決めて、牧野との結婚を真剣に考えなければならないときが、目の前に迫っている。
まずは、牧野の存在を、きちんと家族に伝えなければならない。
でなければいつまでたっても、次の一歩が踏み出せない。
頭の中では、そう理解している。
だから、その覚悟ももうできたと、自分では思っていた。
けれど……。
明子は自分の中にある戸惑いや揺らぎを、ここに至って自覚した。
まだ、牧野との結婚に前向きになれない自分が、いた。
牧野を家族に合わせたくないと思っている自分が、いた。
また一つ、息を吐き出した。
(結婚)
(結婚)
(結婚)
(結婚)
(なんだかなあ)
(最近、この言葉に振り回されっぱなしね)
ほんの数日前までは、今の自分にはまったく縁のない言葉だと、そう思っていた。
なのに、ここ数日、毎日のように聞かされている。
今日に至っては、牧野にまで、結婚というその二文字を突きつけられてきた。
ため息が止まらない。
ふいに、美咲や幸恵たちの姿が、閉じた瞼に浮かぶ。
(あの子たちも、まだまだ、なにかやらかしそうね)
(なんだかなあ)
美咲や幸恵が、今日一日、どこでなにをしていたのか。
それを考えるだけで、明子は頭を抱えたくなってしまう。
さすがにもう、大人しくなってくれるかなと、そんなことを考えていた自分の甘さ加減に苦笑が浮かぶ。
明子はのろのろと手を伸ばし、自分の下腹部をゆっくりと摩った。
電話の途中から感じ始めた鈍痛は、毎月、この時期になるとやってくるものだった。
今夜か明日には、女に生まれたことを面倒に感じてしまうものが、始まるだろう。
起きられないほど酷い症状が出たことは、これまでないけれど、それでも軽い貧血や腹痛はある。
それに加えて今回は、今まで経験したことのない、軽い吐き気や胃痛のような症状がすでにある。
これが一過性のものなのか、これから続いていくものなのか。
それすらも判らない。
‐三十過ぎると、体がどんどん変わっていくわよ。
かつて、明子にそんなことを言った人がいた。
(あれは……、誰だったかしら)
腹部を温めるように撫でながら、この変化はそういうことなのかなと考える。