リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
(なんか、もう、疲れた)
(なんでこう、次から次へと、面倒なことばかり続くんだろう)
(やっぱり、義兄さんからの誘いなんて、断ればよかった)


外の世界に出でおいでという義兄の優しい声に説得され、深く考えもせずに頷いてしまったことが、今となっては後悔の種にしかならない。
よくよく考えてみれば、義兄をけしかけたのも姉だということくらい、今なら想像できることだった。
確かに、明子のことも気に掛けてくれる優しい義兄だが、それでも、彼にとって大切なのは明子ではない。
姉だ。
姉に「明子に、いい人を探してあげて」と、甘えた声で手を合わせて頼まれれば、義兄は二つ返事で引き受けてしまうだろう。
重く湿ったため息が一つ、吐いて出た。
祖父を亡くして以来、あの家にはもう、味方と呼べる理解者など一人もいない。
判っていたはずなのに、改めて、それをまた思い知らされた気分だった。
土曜日は、一緒に寄せ植え作業を手伝えと言った、牧野のあの声が耳に蘇る。


(ホントに、そうしようかなー)


例え、美咲たちと鉢合わせてしまうことになったとしても、まだそのほうが気楽に思えた。


(牧野兄弟といるほうが、ずっと、楽しそうだわ)
(亮一さんが、どんなふうに、あのお嬢様ご一行を蹴散らしてくれるのか)
(今後の参考に見ておくのも、いいかも)


亮一に簡単にやり込められて、目を白黒させている美咲たちの姿を想像して、明子はくすりと笑みをこぼした。
亮一の手のひらの上で、コロコロと面白いほど転がされている牧野の姿を想像して、くつくつと肩が揺れた。
そして、そんなことを半分本気で考えている自分に気づいた明子は、思わず自分に苦笑した。

今さら義兄の誘いを断るようなことをしたら、どんな騒ぎになるか。

考えなくても判ることだった。
それでも、その騒動を差し引いても尚、牧野の誘いに乗ってしまいたいと思っている自分が、悲しくなるくらい笑えてしまう。


(いっそのこと、もう、牧野さんのことを、話しちゃおうかしら)


一瞬、そんな考えが明子の脳裏を過ぎった。
けれど、牧野の存在を告げたとたん、そこから地獄のような尋問タイムが始まることは確実だ。
会社の上司だなどとうっかりと言おうものなら、明日にでも会社に押しかけて、牧野に会わせろと騒ぎ出すかもしれない。
そういう意味では、美咲の母親と自分の母親は同類とも言えた。
疲れ果てているこんなときに、そんな拷問も面倒もゴメンだわと、明子はそう自分に言い聞かせて、その思い付きを打ち消した。
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