リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
打ち合わせの参加メンバーは、主に総務部の面々だった。

もっと、細かく言うならば、総務部総務課と、総務部人事課と、総務部経理課から代表して出席している面々である。
打ち合わせの主たる目的は、社員情報の一元管理化。
それについてであった。
目的は、それである、はず。

総務部全体の作業効率を上げるための、情報の共有化に伴う一元化管理。
なんとも明白なことなのだけれど、これが、牧野が言うところの『吸い上げきれていない要求案件』らしい。
打ち合わせの主たる目的は、こんなにはっきりと判っているのに、打ち合わせそのものは一向に先に進まない。
進まないのに、口論、もとい、議論だけは活発だ。
いや。
厳密に言うと、そうではない。
議論したいのに、それに伴う彼ら内部の問題で口論になっている。
そこでずっと足踏みしたままの膠着状態が続いている。
目的が宙ぶらりんになったまま、その状態が続ていた。
そこまでが、この一時間とちょっとの時間で、明子が理解し得たことだった。

かなり、大雑把なまとめ方だけれど、それでも、口論の中にしっかりと紛れている彼らの要望は、明子の耳でも聞き取れた。
それくらいは、明子でもできた。


(大塚さん)
(あなたさ、なにをしにきてたの、毎回)


片方がこうという要望を挙げれば、片方がそれに対する反対意見を述べる。
確かに、表面だけを見ていると、ただの口論のように見えるけれど、きちんと要望は挙げられ、本来ならば、こちらで検討し提案しなければならない、その要望改善に伴うリスクやデメリットを、向こうがとんどん挙げてくれているのである。


(こんな楽な話、ないじゃない)
(うるさいけどね、とんでもなくうるさいけど、楽、だよ。うん)


明子には、そんなふうに思えた。
目の前で繰り広げられ続けている不毛な口論よりも、そんなことも判らない大塚のダメっぷりに、明子は軽い頭痛を覚え、思わずこめかみに手を当てた。
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