リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
そろりと、明子はベッドから抜け出た。
このまま一日、温かい布団の中で体を丸めて眠っていようかとも思ったが、もう眠れそうになかった。
ぐっすりと眠れたわけではなかったが、妙に意識が冴えていた。
胃に、妙な不快感もあった。
なんだろうと考えて、昨日は昼食も夕食も全て中途半端で、きちんと食べていなかったことを、明子は思い出した。
顔を洗って鏡を見ると、史上最悪クラスに顔を浮腫ませた自分が映っていて、思わず、明子は苦笑した。


(ぶっさいくな、顔)
(今日が、日曜でよかった)


誰が見ても、一晩中、泣き明かしていたということが判る顔だった。
泣いては眠り、覚めては泣いて、また眠りに落ちて。
静かな暗闇の中で、そうやって時が過ぎるのを待っていたような夜だった。

それでも、一夜が過ぎて。
心は、少しだけ落ち着いた。


(温かいお茶でも飲もう)
(気持ちを落ち着けて)
(今日は、一日、のんびりしよう)
(関ちゃんの笑顔、いっぱいみよう)
(楽しいことだけ、考えていよう)
(明日は、会社)
(お仕事が待っている)
(いつも通りに、ただ、毎日を過ごしていこう)
 
        
嫌でも、辛くても。
表面的には何も変わらない、今まで通りの日常が、明子を飲み込んでいくに違いなかった。

薬缶を火にかけて、湯が沸くまでの間、その火に手を翳して温めた。
< 361 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop