リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
そのとき、手の中の携帯電話が鳴った。

覚えのあるその音に、明子の口からため息が零れる。
それは、家族からの着信を知らせる音だった。
もう掛けてこないでと、泣きながら叫んだあの言葉でさえ、あの人には伝わっていなかった。
情けないやら悔しいやらが入り混じり、また、じんわりと眦に涙が溜まる。
出るまで何度でもかけてきそうな気配に、今日一日は電源を落としてしまおうと、明子は携帯電話の電源ボタンに手を掛けた。
けれど、目に入ってきた名前に、明子のその指は止まる。


(義兄さんまで、動員したの)
(あの人)
(かんべんしてよ、もう)


どこまで身勝手な人なのだろうと、明子はまたため息を吐き、肩を落とした。
娘に傷つけられた自分のために、家族全員を動かすつもりなのかと思うと、乾いた笑いさえ零れそうだった。


(今まで通り、私が全部を我慢すれば、丸く収まる)
(そうやっていくしかないんだよね、あの家では)


兄とは言っても義理の兄だ。
義母と義妹に間に立たされ、板挟み状態にさせてしまうのは、気の毒だった。
仕方ないと諦めて、お叱りの言葉でも何でも受けようと、明子は電話に出た。
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