リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
一人でも平気と、叫んだ。
ずっと、私は一人だったのだから。
これからも、私は一人でいられると。
そう強がった。
でも、ホントは寂しい。
一人で過ごす時間は……
やっぱり寂しい。


牧野と一緒に、じゃれあうようにして過ごしていた時間が、すでに、懐かしくなって、胸が痛い。
まだ帰らないでと、素直に言えなかった自分に、明子はバカと呟いた。

一晩中。
明子を探して。
疲れ果て眠り込んでしまったあの寝顔を、思い出す。


(ねえ、牧野さん)
(あなたのその胸の中にあるものと)
(あたしのこの胸の中にあるものは)
(同じものだと、信じてもいいの?)


ふいに、林田の言葉が思い出された。

‐階段を登るべきときが必ず来る、人にはな。
‐人生に、必ず何度か来るんだ、そういうときがな。

林田が沼田に言ったあの言葉を、明子は思い出した。

あれは、自分にも言ってくれていたのだろうか?
自分も今、階段の前に立っているのだろうか?
この一歩を踏み出せば、林田のように、自分も自分が望む場所に、たどり着けるのだろうか?
階段から突き落とされたあの日でさえ、いつか、林田のように笑い飛ばせる日がくるのだろうか?

また、一粒、熱い雫が滴り落ちた。
今日は、流せる涙など、もう一滴として残っていないと思っていたのに、よくよく今日は泣きたいらしいと、明子は泣きながら笑う。

ひとつ、ふたつと黒いシミが広がっていくネクタイを見て、クリーニングに出さなきゃねと、そんなどうでもいいことを考えながら、涙を拭いた。
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