リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
風呂はもう沸いたかと、渇きを訴える喉に水を与えるために立った流しの前で、水を飲みながら給湯器の電源装置に目を向けた。
すでに風呂が沸いていることを、その装置は告げていた。

牧野を目覚めさせた物音は、そのことを告げる機械の『声』だったのかと納得した。
前々から誰かの声に似ていると思っていたその『声』は、韓国料理屋の女店主の声に似ているのだと気付き、牧野はまたその頬に苦笑を浮かべる。

店から飛び出してしまった彼女に、動くこともできずいた牧野を、叱り飛ばしたあの声を思い出した。


‐何してるの、牧野さんっ
‐早く追いかけるっ


そう牧野を追い立てる声が、やっと牧野をその呪縛から解いてくれた。


‐お代、あとでいいよ。あとで、払いにきてくれればいいよ。
‐牧野さん忘れていたら、来週、花を届けにくる、弟さんから貰うよ。
‐早く、あの人追いかけなきゃ、ダメ。外、雨振ってるよ。早く、早く追いかけなきゃ、ダメよ。


牧野のことを、十代の子どもだったころから知っている女店主は、母というよりは、世話好きの親戚のおばちゃんのように、牧野のことを叱って褒めてくれていた人でもあった。
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