リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
あのとき。
もしも、あの声がなかったら………
自分はまた、彼女を失っていたのかもしれない。
そう思うと、またじわりと、いやな汗が額に浮かんでくる思いがした。


(大丈夫。間に合った)
(今度はちゃんと、逃げる彼女を引き止められた)


テーブルに置いた紙袋を見て、牧野はやっと顔の強張りを解いた。

一人分にしては多すぎる料理を見て、内心、焦った。
他の誰かの分なのかと。
少し照れの混じったはにかんだような声で「持っていきますか」と尋ねられて、牧野の心は弾んだ。
自分のために作ってくれているのだと、そう思ったら、嬉しくて嬉しくて、ずっと顔がにやけてしまった。


(大丈夫)
(もう、二度と間違えない)
(二度と、彼女を逃がさない)
(手放さない)


明子をきつく抱きしめた牧野の手には、まだ明子の柔らかなその感触が残っていた。
< 429 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop