リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「お嬢様を、ここに入れるって話しが出たときにな、ふざけんなって辞表を出したんだけどな。まあ、いろいろあって最後は引っ込めて。そのときに、本部長に言われたんだ。一回だけ、どんな我侭で聞いてやるって。だから、小杉よこせって、直談判してきた」
「はあ?!」

バカですか? 牧野さん、あなたバカですね?!
顔を真っ赤にして「バカバカバカ」と、牧野を責め詰る明子に「なにが、バカなんだよ」と、牧野は鼻を鳴らして憤慨した。

「君島さんが、部長に、小杉を異動させられないかなんて、こそこそ聞いてたからな。やべーと思って、本部長に掛け合ったんじゃねえか」

それのなにが悪いんだよと、牧野は納得できんというように、牧野を詰る明子を見る。

「なにがって……。あのですね。そんなこと、本部長に頼みに行くなんて。もうっ なにを考えてんですかっ」
「しょうがねえだろ。君島さんとこに持っていかれちまったら、もう、君島さんとケンカ覚悟でやり合わなきゃ、取り戻せねえじゃねえか」
「なにが取り戻すですかっ なにを言っているか、さっぱり判りませんっ」

どんな屁理屈ですかと、顔を真っ赤にしてぷんすかと怒っている明子に、牧野は別に「屁理屈でもなんでもねえし、そのための課長だしなど」と、更に意味不明な独り言をこぼしながら、鼻の頭を引っ掻いた。
信じられない、バカじゃないと、まだブツブツとぼやいている明子の声を聞きながら、一つ、ぶわっという勢いで息を吐き出して、気を取り直した牧野は、まだむくれている明子に中断していた話を続けた。

「で。結果、大塚は異動の話を、一年先延ばしにしたらしい。新藤はどうにもならねえし、坂下と安藤があの様で、原田の様子も怪しくなってきたからな。吉田は当てにもならねえし。それで、沼田をあのままにして抜けていくのは、気が引けたんだとさ、あいつも」
「原田さんって、夏のころまでちゃんとしたような気が」
「そりゃ、見た目の話な。坂下ほどじゃないけどな、仕事に身が入らなくなってきてな。あいつのプログラム、テストが甘くてバグが多くなってきたって、野木が頭を抱えてたんだ、去年の冬くらいから」

そうだったのねと、初めて知ったその事実に、明子はふうんと頷くしかなかった。
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