リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「似て、ないですよ。君島さんはすごいんです。私なんか、足元にも及ばないです」

どう反応していいのか判らないというような、そんな顔をしている明子の後頭部を、小林はトントンと軽く撫でるように叩いた。

明子にとって君島は、ずっと、憧れて尊敬してきた大先輩だ。
新人のころ。
あんなふうに後輩を助けて、守って、育ててあげることができるようなそんな先輩に自分もなりたいと、君島を見てそう思った。
優しさと厳しさを与え、それを教えることのできる人になりたいと。
そんな憧憬を抱いて、密かにずっと目標にしてきた人だ。
その君島に似ていると小林に言われたことには嬉しさを感じるけれど、それでも、それはとんでもない買い被りだと、明子は恐縮する。

「まったく。なんだって言うんだ、あの連中」

牧野が会議室に入ってくるなり、うんざりとした口調でそうぼやき、食べかけの弁当を掻き込むようにして、また食べ始めた。
そんな牧野の顔を見て、すぅっと、明子の表情が変わる。
小林と話していたときに浮かんでいた照れや戸惑いといった感情が、すべて皮膚の下に消えていった。
やっとお昼ご飯にありつけるというように、いそいそといつもの席に座った木村と、そのあとに続き、疲れたような顔で腰を下ろした沼田を見て、小林が「どうしたんだ?」と、木村に尋ねた。

「原田と三課の野々村が、一緒にご飯食べに行きましょうって、沼田さんのことをしつこく誘ってて。沼田さんが弁当あるからって断ってるのに、そんなパンなんか、いつでも食べられるでしょうだのなんだの」
「ごめんな。なんか面倒かけて」

珍しく沼田がため息を吐き、昼食のパンを取り出しながらも、なかなか食べようとしなかった。

「そういうこと、よくあるの?」

心配がる明子に、沼田はますます困ったように顔をしかめた。

「最近、仕事以外のメールとかが多くて。野々村なんて、メアド教えてもいないのに、メールが来るし。でも、今日みたいにしつこく誘ってくるのは、初めてです」
「昨日のことがあるから、焦ってるんじゃないですか。原田も野々村も」
「昨日のこと?」

なんだろうと眉間に皺を寄せている沼田に、ほら、小杉主任のことで、いろいろ吉田係長に言われたときですよと、木村は昨日の朝の一件を持ち出した。
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