リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「君島は、そういうところがすごいんだよ。俺なんか、なにがあっても、そこは絶対に適わねえ」

それは、負け惜しみでも皮肉でもなんでもない、掛け値なしの賞賛の言葉だった。明子は押し黙ったまま、その言葉に耳を傾け続けた。

「だから、本部長も、どうにもならんと皆が匙を投げたヤツを、最後の最後で君島に預けるんだ。お前のところで、鍛えてみてくれってな。ホントにな、見てるこっちが呆れるくらい、気長に付き合うんだよ、あいつは。預かったヤツが、変わるまでな。だから、君島でダメなら、もう仕方がないって、本部長も見限って引導を渡すんだ」

その言葉に、明子は昨日の午後から姿を見ていない吉田が気になったが、敢えてそれは尋ねなかった。
聞くのが、怖かった。

「島野が一番、いい例だな。君島に預けられなかったら、とっくに会社なんか止めて、どっかのホステスのヒモにでもなってたろうよ。それが原因のトラブルにでも巻き込まれて、あんがい、今ごろは死んでたかもな。ホントに、君島が改心させるまでのアレの女遊びは、すごかったんだからな」

それを救って変えたのは、間違いなく君島だ。
ドアの向こうを気にしながら、訥々と続ける小林のその言葉に明子も頷くしかなかった。

「君島さんは、確かにそうですけど。だからって、私にそのお鉢を回されても。君島さんがお手上げ状態になった子、私にだって」
「お前、似てるよ、君島と。そういうところ」

俺が言うんだから間違いねえと笑う小林に、明子は「なにを言ってるんですか」と、やや顔を赤らめながら慌てふためく。
買い被るにもほどがありますと言う明子に「買い被っているつもりはない」と、小林は真顔で答えた。

「そんなわけ」
「あるんだって。だから、ウチの課長さんも、つい甘えちまうんだよ、お前さんにはな。俺や牧野には、お前や君島にあるその大らかさっつうか、余裕っつうか、そういうもんがないんだよ。まあ、だからって、君島と同じノリで、年下の女の子に全力で寄りかかって甘えるバカがいるかって、今朝も君島と釘は刺したんだけどなあ。あの大男には」

まだ判ってねえな、あのバカ。
困ったやつだなというその顔に、明子は戸惑ったように押し黙るしかなかった。
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