リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
降参した牧野を見て笑う明子のその顔に、なかなか流されないな、こいつはと牧野は苦笑しながら、だからこそ、欲しくてたまらないのだということを、改めて自覚した。

飾ることも、気取ることも、必要ない。
我が儘でくだらない、ただの男でいることができる存在に、隣にいてほしいのだと、改めて思い知った。

そう言えば、胃袋を捕まえられちまったんだ、白旗あげて降参しちまえと、そう言って牧野を笑ったのも君島だったと思い出し、思わず、つまらなそうに舌を鳴らした。
こうなにもかも見透かされ言い当てられると、少しばかり癪に障った。


(でも、ホントだな)
(飯ぶら下げられたら、勝てねえな)
(まあ、いいや。日曜はカレーだ)
(あいつのカレーだ)
(ぜったい、美味いに決まってる)


そんなことを考えるだけで、牧野の頬がだらしなく緩む。


(そういや。実家に荷物、届くんだよな)
(土曜の夜から、酒を持って押しかけちまうかな)
(あいつも、好きな酒だしな)


昔、互いの徳利を奪い合いながら飲んでいたことを思い出すと、また笑いがこみあげてくる。
そんなことを考えて、座り込んだとたん、





鳴り響く雷鳴が、牧野に悪夢を運んできた。


体も、
心も、
記憶も。

なにもかもが凍りついた。
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