リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
なぜか、大塚はよくマシンを壊す。クラッシュさせる。
明子が知っている限りでも、二台か三台はダメにしている。
本人いわく『静電気体質』と言うことらしいが、牧野はそんなものに科学的根拠はないと笑っている。
でも、確かに、大塚は冬でなくてもバチッと指先に電気が走ったような仕草をして、痛ーっと喚いているところをよく見るような気がした。
広島でもさっそくやらかしたのかと、明子はやれやれと苦笑した。


 大塚さんですか(笑)
 すぐに手配して送ります。


牧野が知ったら、またあのバカかと吐き捨てるように言うだろうなと思いつつ、そんなメールを送るとすぐに返信があった。


 そうか。
 大塚がいたね。
 本人の名誉のために一言。
 今回は別。
 でも、すぐ壊すかな。

 おやすね。


ありゃま、大塚さん、ごめんなさい、濡れ衣着せちゃいました、えへへと笑いながら、おやすみの言葉にメールは終わりだろうと明子は携帯電話を閉じた。
とたん、また、島野からのメールが届いた。
件名のないそのメールを、なんだろうと明子は不思議そうな顔つきで眺めた。


 牧野とのこと。
 総務や営業の女子間で
 噂になっているようだよ。
 総務の子からメールがきた。

 忠告。
 何か聞かれたら。
 ごまかしちゃダメだよ。
 ホントのことを言いなさい。
 下手な言い繕いは
 余計な反感買うからね。


思わず、明子は携帯電話を落としそうになった。


(もう、広まったの?!)
(早くない?!)
(牧野ファンクラブ連絡網)
(まだ、がっつり、健在なのね)


うきゃー、総務も営業もほとぼり覚めるまで顔なんて出したくないーっと、頭を抱えてワタワタしたが、今さら取り繕うこともできないと、明子は諦めるしかないことを悟った。
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