キスはおとなの呼吸のように【完】
「こどもが三輪車にのったときの目の高さでしょ、このシールの位置」

立っているわたしのひざより、ほんのすこししたあたりだろうか。
そういわれてみれば、そういう高さだ。

なつかしそうにカズトは続ける。

「この立ちのみスペースって、おれが店を継いでからつくった場所なんだ。両親の代では、この場所はまだなくて、ただの酒屋の裏口だった。そこにおれの三輪車がおいてあった」

「へえ」

あたりまえだが、カズトにもちっちゃいこどものころがあったんだなと思う。

はじめてきくカズトの昔話に、わたしは耳をかたむけた。
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