キスはおとなの呼吸のように【完】
「すまない」

先輩は口の中身を、ごくりとのみこみスーツのうちポケットからケータイを抜く。
ディスプレイを確認して、仕事モードの顔に切りかわる。
どうやら営業先からの電話らしい。
食事のさいちゅうだとは思えないほど、しゃんとした声をだす。

「大上です。先日はお世話になりました」

ひざのうえにカルビ焼肉弁当がのっていることなど、電話の相手は想像すらしないだろう。
大上先輩はおおまじめな声と顔で、ふたことみこと返事をしている。
< 81 / 380 >

この作品をシェア

pagetop