Vrai Amour ~駿の場合~
そして、生まれてきた子は両親を尊敬し、とても大事にしてくれるいい子に育った。

頭もよく、咲子の子だけあって容姿端麗だ。

少しだけ気にかかるのは、くそ真面目な父親の性格を受け継いでしまったことだろうか。


「では、いってまいります」


「ああ、直、ちょっと待って」


イギリスの執事学校を主席で卒業した息子の直は今日から桐島家へ正式にお仕えすることになった。

午後から旦那様に挨拶に伺うとのことで、咲子は旦那様が自分の息子であるにもかかわらず、直の支度をしつこく手伝おうとした。

直には私たちのことは話していない。

なんとなく気づいているようではあるけれど、優しい直は知らないふりをしてくれている。


「もう大丈夫ですって、母さん」


明日から数年はお屋敷の執事専用の部屋に暮らすことになるせいか、お屋敷までは目と鼻の先だというのに咲子は寂しそうに笑った。


「今日から恵様は旦那様になるんだからな。もう今までのお兄さんではないぞ」


そう言うと、わかってるとしっかりとうなづいてくれた。
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