ふわりふわり
ふわりふわり
たまにふと、懐かしい空気に触れる時がある。

胸の奥の辺り、具体的に言うとお腹に近い部分がキュウっとなる感じだ。
空の色や空気の匂いとか、うまく言えないけど今と昔が重なる感じかもしれない。
ふとした瞬間にそれはやって来る。

実家にいた頃とか、大切な誰かと過ごした日とか、ロンドンの安くて汚いB&Bから眺めた景色を思い出す。
小さな窓枠に閉じ込められたロンドンの景色は、驚くほど素敵で、キレイで、悲しくなった。

この場所に、ずっと居たいと思った。

あの場所に置き去りにしたすべて、どうでもよかった。
小さなアパートに思い出も、悲しみも、全部を詰め込んだまま、ここにずっと居たかった。
今あたしにあるのは、大好きなCDが数枚と小さな窓から見える素敵なロンドンと、あったかくてとびきり甘いコーヒーだけだった。

だけど、それだけでよかった。
あたしの事を知ってる人もいなくて、ひたすらゆったり流れる時間に溶け込んでいきたかった。

目をつむると、まるで自分が砂になった様だった。
優しく通り抜ける風が、あたしの体をサラサラと風に流してゆく。
頭からゆっくりと、砂になってゆく。
そんな事を想像しながら、ただただ彼を想った。
想った。
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