高天原異聞 ~女神の言伝~
記憶に残らぬ、夢を見た。
美しい双柱の女神が、向かい合い、手を取り合っている。
――今日よりそなたが私の名を名乗りなさい。愛する方に望まれて、今まさに咲く花のように美しいそなたに相応しい。それが私からの贈り物よ
――本当に、いいのかしら……私のようなものが、あの美しい方の嫡妻《むかひめ》になっても。お姉様の方が、あの方には相応しいのでは――
――何を言うの! あの方は、一目でそなたに心を奪われたと言ったではないの。私になど、目もくれなかったわ。あれは愛しい者を見る目よ。わかるわ、私の愛しい方も、そのように私を見つめるもの。きっとそなたは幸せになれるわ
――お姉様
――愛しい妹。そなたが幸せなら、それでいいの。そのように愛されて、そなたは幸せよ
どちらもとても美しい女神だった。
姉比売は濡れ羽色の美しい髪と瞳で、妹比売の瞳は、それよりはほんの少し淡い色をしていたが、結い上げた髪の艶やかさは同じで、花を象った房のついた髪挿しも同じであった。
姉比売は淡い肌の色で、薄紅の頬は微笑むと健やかな美しさで誰をも魅了し、妹比売は透き通るような肌で、薄紅の頬は微笑むと儚げな美しさで誰をも虜にした。
双子であるが故に面差しは似ていても、美しさは天と地ほども異なっていた。
それでも、対のような美しい比売神は国津神の幸わいであった。
姿を現すたびに、美しい花が咲き、舞い散る――そのような女神達を、国津神の全てが愛しんだ。