高天原異聞 ~女神の言伝~
閉館間際に、美咲はいつも通り館内の施錠を確認し、カーテンを閉めた。
山中は、職員室で会議中だ。
そのまま帰ると言っていたので、今図書館には美咲と慎也しかいない。
慎也は備え付けられた大きな机の端に座って本を読んでいる。
よほどその本に夢中なのか、いつもは伸びた背筋が前に傾いでいる。
長い指がページをめくる。
真剣に読みふけるその姿は、いつもの大人びて飄々とした慎也を年相応に見せている。
知らずに、笑みがもれる。
その時。
慎也が顔を上げた。
「――」
一瞬、遠い目をして、何かを捜しているようにも見えた。
が、美咲を視界に入れると、ほっとしたような表情になり、それから、愛しさを隠さずに微笑んだ。
その笑みに、美咲は目を奪われた。
不意に、こみあげる愛しさが心を震わせる。
この人に、逢いたかったのだ。
そう思った。
ずっと捜してたような気がする。
やっと出逢えたような気がする。
嬉しいはずなのに、泣きたくなった。
何かを伝えたかったはずなのに、言葉にならなかった。
それを伝えるために、ここまで来たのに。