高天原異聞 ~女神の言伝~
須勢理比売が己貴の来訪を告げ、広間に通された時、改めて真向かった荒ぶる神の眼光は鋭く険しいものだった。
「大己貴よ。ここに留まり、須勢理と共に根の堅州国を治めていくのだな」
「はい、そのつもりでおります」
「ならば、そなたが須勢理の婿として、この堅州国の主として相応しいか見定めねばならん」
己貴の試練が始まった。
だが、荒ぶる神の試練など、何ほどのことでもなかった。
須勢理比売を得るためならば、自分はどんな試練にも耐えてみせる。
須佐之男の出す試練を、己貴は全てやり抜いた。
そんな己貴を、荒ぶる神は満足げに見ていた。
「――よかろう。確かにそなたはこの根の堅州国の女王須勢理の婿に相応しいと証立《あかしだ》てた」
「義父上様、では――!?」
「ここに留まるがいい。今日からここが、そなたの館だ」
喜びにうち震える己貴を余所に、須勢理比売は唇を噛みしめ、すっと立ち上がる。
そして、戸惑う己貴を置いて、部屋を出て往った。
「須勢理!?」
「構わん、放っておけ。虫の居所が悪いだけだ。ここを治める定めを持って産まれたのに、何故かこの国を厭う娘なのだ」
だが、己貴は荒ぶる神の部屋を出た後、すぐに須勢理比売を追いかける。
須勢理比売は自室で泣いていた。
己貴は須勢理比売を抱きしめる。
「須勢理、ここでは駄目なのか? 私はそなたといられるなら、豊葦原に戻らずともよい。ここでそなたと根の堅州国を治めてもよいのだ」
「嫌!!」
「須勢理――」
「このような処にいたくない。私は、豊葦原へ、己貴様の還る場所へ往きたい。こんな処、大嫌い」
須勢理比売は己貴に縋り付き、涙にけむる美しい容で見上げる。
「己貴様、連れていって。私を、豊葦原へ」
愛しい女神の懇願を、どうして拒めようか。