高天原異聞 ~女神の言伝~

「母上様……」

 己の呟きで、日狭女は微睡みから引き戻された。
 首を傾けると、見慣れた部屋が視界に入る。
 ゆっくりと、日狭女は身を起こす。
 闇の主によって、ここに引き戻されたのに、今目覚めるとは。
 まさか、全ては自分が眠っている間に終わってしまったのか?

「――」

 慌てて、日狭女は部屋を出る。
 静まりかえった国。
 闇の主の気配さえない。
 おかしい。
 いつもなら、主の気配は何処にいても感じられるのに。

「九十九神、いるか」

 暗闇に問いかける。
 すると、日狭女の影が、生きているもののように伸び上がる。

――我ラヲオ呼ビカ、日狭女殿

 密やかに響く思念。
 実体を持たぬ、闇から成りし御霊――それが、九十九神。

「主様の気配がせぬ。何処に往かれた?」

――主様ハ、此処ニオワス。タダ、休ンデオラレル

「休んで……? 闇の神気も感じ取れぬほど、お疲れなのか?」

 だから、自分は途中で目覚めたのか。

――我ラニモワカラヌ。タダ、ゴ無理ヲナサレタヨウダ

――我ラハ主様ガ目覚メルマデ、オ傍デオ護リスルノミ

「主様から離れるな。目覚めるまで、しかとお護りせよ」

――承知シタ

 影がすっともとの場所に戻る。
 同時に日狭女は、再び黄泉国の門へ向かって走り出した。










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