高天原異聞 ~女神の言伝~

3 重ならない想い


 幸せそうに寄り添う二柱の神が視える。
 根の堅州国をともに抜け出し、豊葦原へと還ってきた麗しい男神と女神だ。
 幸せそうな一対の姿に、仄かな羨望が沸き上がる。
 全てを捨ててでも、理に逆らってでも、女神の望みを叶えようとする男神。
 愛し合う二柱の神々の姿が、切ない胸の疼きをもたらす。

 あの方は、そうまでしてはくれなかった。

 理に逆らってでも、自分を連れ戻そうとしてくれなかった。
 何が違うというのだ。
 何故、自分は駄目だったのだ。
 哀しみのまま時は流れ、いつしか裏切りに対する怒りが芽生えた。
 それでも、還りたいと願うことを止められない。
 愚かな自分は、こうして地上の様子をひっそりと窺うことしかできない。
 幸せな神々を妬ましく思いながら。

 だが、この女神の願いは叶うまい。
 自分と同じに。

 そのことに、少しだけ慰められる。
 彼女は根の堅州国の女王なのだ。
 理は、決して彼女を逃さない。
 いずれ、根の堅州国へ戻る定め。

 束の間の幸せに酔いしれるといい。

 己の浅ましさに気づき、息をついて、頭を振る。
 何ということだろう。
 生神《いきがみ》の不幸を願うなど。
 そうまでして、気づく。
 この女神では、黄泉国までは来れない。

 自分の願いを叶える女神は、まだ現れない――







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