高天原異聞 ~女神の言伝~

 あまりにもさらりと問われて、美咲は一瞬返答につまる。

「――どうして、今聞くかなぁ……」

「今、美咲さんにキスしたいから。だって、図書館で言わずにしたら怒ったじゃん」

「――」

 いつ人目に触れるかわからない職場だから美咲は怒ったのだが、慎也には通じていないらしい。
 なんと答えたものか迷っていると、慎也が身を乗り出して美咲の横に来た。

「いい? 美咲さん」

「――駄目って言ったら、やめてくれる?」

「いいって言ってくれるまで、待つ」

 真面目な返答に、美咲は少し笑ってしまった。

「何よ、結局するんじゃない」

 慎也も少し笑って、さらに顔を近づける。

「でも、美咲さんの許可がほしい。いつも俺一人だけがしたいんじゃなくて、美咲さんもしたいんだって確認したいから」

 慎也の手が美咲の頬に触れる。

「いい?」

「――いいよ」

 誰かに見られる心配もない今なら、美咲は素直に答えられた。


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