高天原異聞 ~女神の言伝~
「無理矢理したいわけじゃない。何かあるなら話して」

「――」

 美咲は、慎也に触れられると感じるあの不可思議な感覚について話した。
 あの書庫の階段での体験のように、自分には理解できない感覚が湧き上がることを。

「馬鹿みたいでしょ。自分でもどうしてこうなるのかわからないの。触られるのが、嫌なんじゃないのよ」

「馬鹿みたいだなんて思わない。俺が触るの嫌じゃないって聞いて嬉しい。今は、大丈夫?」

「ええ。全然しない」

 少し考えるようして、慎也は美咲を見つめた。

「じゃ、ちょっと試してみてもいい?」

「? 試すって?」

 慎也が美咲の身体を引き寄せて体勢を変える。
 慎也がベッドサイドに背を預けて足を伸ばして座る。
 そして、美咲は慎也の足を跨ぐようにその上に座らされる。
 美咲のほうが、ほんの少し慎也を見下ろすかたちになる。

「俺を見ててね」

 言われたとおり、美咲は慎也の顔を見た。
 至近距離で見上げられて、落ち着かない。
 だが、こんなに間近でじっくりと慎也を見る機会は、初めてだと今更ながらに実感した。
 少し切れ長の目元、伸びかけた前髪、通った鼻筋、すっきりとした頬のライン、どれも美咲の好きな慎也の顔だ。
 頬に触れると、滑らかな感触がした。


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