高天原異聞 ~女神の言伝~
「なんだ。結局交合いはなしか」
呆れたように呟く背の高い男――荒ぶる神を見て、傍にいたもう一人の男と女が苦笑する。
「人の世の理もあるのでしょう。神代とはあまりにも遠く隔たっておりますゆえ」
「長い年月とともに、確かに人の世は様変わりしたな。お前達も驚いたろう」
「ええ、この憑巫《よりまし》から記憶は読み取りましたが、あまりの変わりように未だに慣れませぬ」
「真にもって。いっそ女神のように記憶を持たぬほうがいいかと思うほどです」
女の大げさな物言いに荒ぶる神は頷く。
「これまでの変遷を知らぬお前達には無理も無い。特に、この二百年の変わりようは凄まじい。その間に、あらゆる神が人の意志により生まれては消え果てた。忘れ去られた神は、その名残が未だ辛うじてとどまるのみだ」