高天原異聞 ~女神の言伝~
「申し訳ありません!!」
小声で周囲に謝り、手から離れた本を拾おうとしゃがみこむ。
新刊なのに、ページに折れ目でもついたら――
美咲は自分にがっかりした。
大好きな本を落としてしまったことを。
そしてなにより、この沈黙を壊してしまったことを。
慌てて近いほうの本を拾い上げてから、ふと、遠くに滑った本を拾ってくれている学生服の男子が見えた。
どうやら、彼にぶつかったらしい。
この学校の制服だ。
ブレザーに横から見える紺のネクタイ。
紺は3年生の色だ。
入学式の帰りに、本を借りるか、勉強しに来たのだろう。
ぶつかった上に本を拾わせてしまうとは、重ね重ね不調法だと反省する。