高天原異聞 ~女神の言伝~

 ほぼ直線の廊下を真っ直ぐに奥へと走る。
 いつもなら非常口の絵文字の見慣れた緑と白が見えるはずなのに、今日に限って見えない。
 美咲は自分が何処を走っているのかわからなくなりそうだった。
 振り向けば、自分を追って黒い水が床を這ってじわじわと進んでくる。
 恐怖に駆られてただひたすら美咲は進んだ。
 本来ならば、右側には中庭に面した窓があるはず。
 左手側には、教室が。
 けれど、まるで地下への一本道のようにただ、真っ暗な道が前へとあるだけだ。
 まるで、黄泉へと続く道のように。

「誰か、助けて!」

 美咲は叫んだ。
 けれど、答えはない。

 見回りの先生は――山中先生は?

 校舎を見回っているはずなのに、足音さえ聞こえない。
 そこで気づく。
 自分の足音もしない。
 美咲は足を止めた。
 ここはどこなのだ。
 自分は今どこを走っているのだ。
 学校内のはずなのに。
 怖い。

「誰か……慎也くん……助けて、お願い……」

 涙がこぼれた。
 それが、暗闇で今は見えない床に落ちた。

 その時。

――上へ!

 澄んだ、心を震わせる思念が、美咲の頭に響く。
 涙がこぼれた足元に、廊下の床が見える。


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