高天原異聞 ~女神の言伝~

 不意に風が美咲の髪を揺らした。
 促されるように美咲は顔を上げる。
 外へ出るための非常口が見えた。
 そして、扉の向こうには確か非常階段もあったことを思い出した。
 美咲は響いた思念に従って非常口の扉を開け、階段を上がった。
 踊り場を曲がり、さらに上がる。
 先にはすでに階段しか見えない。
 美咲はどんどん階段を上がった。
 息が荒くなり、足が震えて辛かったが、それでも、見える限りどんどん駆け上がる。
 屋上まで来ると、それで最後だった。
 暗いが、完全な闇ではなく、景色が見えることに安堵した。
 しかし、広い屋上は隠れるところが無い。
 校舎から通じる屋上への扉と、非常階段の横に大きな貯水タンクが備え付けられているだけだ。
 さらに駆け寄り貯水タンクと屋上を遮る柵を越えると、下を見ないように貯水タンクの後ろへ回り込み、隠れる。
 床から続く膝まで高さのコンクリートの囲いしかないその隙間は、身を乗り出せばすぐ落ちてしまいそうだ。
 それでも、隠れられたことにほっとする。
 音を立てないように、必死で息を押し殺す。
 自分の心臓が、やけに大きく響いているように感じた。
 だが、禍々しい気配はそんな美咲をさらに追い詰める。

――女神ガイタゾ

 心臓が、どくんと大きく震えた。
 足元を見ると、じわじわと黒い水が這い寄ってくる。
 美咲は慌てて下がろうとしたが、膝の後ろが囲いにぶつかって止めた。
 それ以上の逃げ場は無い。
 これ以上は、逃げられない。

「――嫌……」

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