高天原異聞 ~女神の言伝~
「帰ろう、美咲さん。送ってくよ」
声をかけられて、美咲は慎也を振り返る。
慎也は美咲に向かって手を差し伸べていた。
伸ばされたその手を美咲は素直に繋いだ。
温もりが伝わる。
いろいろな出来事の中で、最たるものは、慎也との出逢いだ。
この手を、放したくない――強くそう思った。
「今日、アパートによってく?」
「いいの?」
驚いたように問い返す慎也に、美咲は頷いた。
「いいわ」
「よってくだけじゃ、済まないけど、それでもいいの?」
慎也の声音は真剣だった。
だから、美咲も真面目に答えた。
「今日はよってくだけ。泊まるのは、明日よ――」
死ぬかもしれなかったのに、自分を追って3階から跳んでくれた気持ちは、嘘じゃないと思えたから。
繋いだ手に力をこめる。
慎也は、一瞬動きを止めたが、繋いだ手を優しく握り返し、嬉しそうに笑った。