高天原異聞 ~女神の言伝~

 次の日も、変わらない日常は続いた。
 美咲はいつもどおり図書館へ出勤する。
 職員朝会を終えて準備室で仕事をしていた山中が美咲が入ってくるなり手を上げた。

「おはよう。藤堂さん、昨日は鍵を届けてくれてありがとう。慌てて忘れていったのね」

「いえ、いいんです」

 職員用玄関のすぐ脇のロッカー室にバッグを入れて、美咲は自分の机に向かった。
 出勤簿に判子を押して、朝のコーヒーをカップに注ぐ。

「――ところで、先生」

「ん? なあに」

「昨日の見回り、どうでした?」

 美咲の問いに、山中ははっとしたように顔を上げた。

「そうよ、聞いて! 今日は何と、あの悪戯がなかったのよ!」

 嬉しそうに言う山中に、美咲は内心やはりと思いながらも口裏を合わせる。

「そうなんですか? 犯人、見つかったんですか?」

「ううん。結局、誰かはわからないのよ。でも、続いてた悪戯がやんだってことは、もうあきらめたんじゃないかしら。そう言えば、藤堂さんは昨日校舎に入ったけど、誰か残ってる生徒とか見なかった?」

 問われてどきりとするが、努めて平静を装う。
 昨日の出来事を、山中に話しても信じてもらえるかどうか。
 自分だって、未だに信じられないのだ。

「――いえ、全く見ませんでした」

 美咲の返答に、山中も頷く。

「私達も、結局何も見つけられなかったわ。見回りがようやく効を奏したのかしら。不思議なこともあるものね。さ、仕事しましょう。今日はまた、午後から書庫の整理と廃棄本、お願いできるかしら」

「わかりました」

 それ以上、夕べの出来事に対する話はできなかった。
 美咲も、気持ちを切り替えて仕事に集中した。




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