高天原異聞 ~女神の言伝~

 午後になり、昼食を終えて休憩してから、美咲は山中に言われたとおり書庫で本の整理をしていた。
 バーコードでの読み取りが導入されていなかった頃の本は、すでに痛みも激しいので、借りる者も滅多にいない。
 奥へ奥へと押しやられるだけの本を選別して処分するのは気が引けるが、これも業務だと割り切る。
 端にあった背表紙の題名さえ消えている本を手に取ったとき、美咲はどきりとした。

 古事記。

 日本の神話と歴史書が入り混じったその本は、美咲に昨日の出来事を思い出させた。
 自分を追いかけてきたあの黒い水は、自分を女神と呼んだ。
 ページの最初を何枚かめくると、國産みの神話だ。
 どろどろした泥をかき混ぜて島を生み出し、あらゆる神々を生み出し、世界を創る。
 火の神を産んで死んだことで、今度は黄泉を司る死の女神になった。
 それに関わる女神は一人だけだ。

「――」

 まさか――

「美咲さん」

「きゃあ!」

 突然背後からかかった声に、美咲は叫んだ。




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