高天原異聞 ~女神の言伝~
振り返ると、慎也が立っている。
「ど、どうしてここに? 授業は?」
「授業なら終わったよ。図書館に来たら、山中先生が手伝えって。だから来たんだ」
「――」
どうやら、山中は気をきかせてくれているらしい。
しかし、いくら慎也を気に入っているとはいえ、いいのだろうか。
図書館の書庫で、自分達を二人きりにさせるなど。
仕事をおろそかにするつもりは無いが、何をしているかわからないではないか。
「何真剣に考え込んでたの?」
美咲は手に取っていた本を元の場所に押し込む。
そうして、慎也に向き直る。
「昨日のことよ。あの、黒い水のこと」
「ふうん、で、何かわかった?」
「全然。悪い夢でも見てた気分。誰も何も騒いでない」
「じゃ、夢でいいんじゃない?」
あくまでも慎也は他人事だ。
自分だって、あの不可思議な出来事に巻き込まれて3階から飛び降りたくせに。