TAKE MEDICINE この世界で誰が正常でいられると?
わたしは咄嗟に叫んだ。
何も考えていなかったけれど、咄嗟に嫌だという言葉が出た。
それはきっと、死に対して。

わたしの叫びに、あと数センチの距離のところで桧野の手がとまる。
わたしはほっと胸を撫で下ろすと、力が抜けてしまったのか体育館の床に倒れこんだ。
がこんと凄まじい音と共にわたしの頭に衝撃が走る。

痛い。
勢い余って頭を床にぶつけてしまったようだ。

そんなとき、桧野の声が降ってくる。
真面目な瞳でこちらを見ながら、桧野がわたしに大声で語りかける。
そんな桧野から殺気や怒気は、いつの間にか消えていた。

「なんで……なんで、嫌なんだよ!」

吃驚した。
そんな言葉が飛んでくるなんて思わなかったから。
だけど桧野は至って真面目な顔でわたしに返事を求めてくる。

「え、っと……」

仕方ないから返事をしようと思ったけれど、思わず口篭ってしまった。
どうしてかよく分からなかった。
なぜあのとき「嫌」という単語が出たのか。
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