TAKE MEDICINE この世界で誰が正常でいられると?
やっぱりね、と心の中でにやけながら、わたしは舞香に平然と話しかける。

「舞香、やっぱ怖いんじゃないの」
「違う! 怖くなんてない!」

確かに震えているのに、それは舞香も分かっているはずなのに、舞香はわたしの言葉を受け入れようとはしなかった。

意外と負けず嫌いなんだ。
そんなことを呑気に思いつつ、わたしは新たなる不安を感じた。

もし勢いで刃を手首に食い込ませてしまったらどうしよう。

不安になって、声に出す。

「……怖いんならやめなよ」
「やめない……怖くないから、やめない」

舞香は行為をやめようとはしない。
だけどその指は破片を持つだけで精一杯に見えた。

やっぱり大丈夫か、とほっと胸を撫で下ろす。

「じゃあなんでその手は震えているの」

心なしか舞香の顔色も悪いような気がする。
舞香もわたしと同じように、底知れない恐怖に怯えているのだろう。

死んで楽になりたいという快楽を求める気持ちとは裏腹に、この一瞬をひどく恐れる自分がいる。
もどかしいけど、それが現実。
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