LAST EDEN‐楽園のこども‐

小休止2

代々木駅から歩いて20分ほど行ったところに、涼のマンションはあった。


母親と暮らした横浜の地から、祖父にあてがわれたマンションに越してきて、もう二年。


一人で住むには広すぎる2LDKの中へ入ると、涼の足音に、先ほどの仔猫がトテトテと出迎えにやって来る。


「なんだよ」


額を足にこすりつけるようにして擦り寄るそれを抱き上げると、猫は目を細めて「ニー」とか細い泣き声を繰り返す。


まるで、自分を置いて出かけた涼に文句を言っているようである。


「言っとくけど、お前のエサを買ってきてやったんだからな」


一人で住むには広い部屋は、驚くほど生活感が感じられない。


使われていない台所。


ポスターの一枚も貼られていない白い壁。


そして、ドレッサーもなければ流行のCDすら見当たらない、年頃の少女の部屋にしてはあまりにも殺風景なリビング。


その部屋の隅に白い小鉢を置いてキャットフードを入れると、仔猫は一心不乱に貪り、数分でぺロリと平らげた。


「ミー」


それから、猫は弱々しい声で鳴き、涼の座っているソファに片足を乗せて涼を見た。


どうやら、抱き上げろという意味らしい。


「ったく」


見たところ生後一ヶ月ほどのくせに、可愛い顔で甘えれば思い通りにならないことはないと知っているそれをそっと抱き上げてやると、小さな暴君は、涼の膝の上で気持ち良さそうに両目を閉じた。


暖かい部屋。


ここならもう、冷たい雨に打たれる心配もないと思ったのだろう。


ピンク色の腹を見せて眠る仔猫は、随分幸せそうだった。
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