LAST EDEN‐楽園のこども‐

佐伯悠仁

「失礼します」


涼はその日の午後、職員室を訪れていた。


先日担任に言われた通り、進路希望調査の紙を持ってきたのである。


だが、担任は涼の予想通り、紙を手に取ると頬をわなわなと震わせて叫ぶ。


「雨宮!」


そして、手渡した紙を彼女の顔めがけて投げつけると、額に筋を浮かせてさらに怒声を上げた。


「何だこれは!?」


「進路希望調査票です」


「そんなことはわかってる。俺が聞いているのは、お前は何を考えてるのかということだ!」


担任は、周囲が振り返るほど大きな音で机をバンと叩くと、耳をつんざくようなカナキリ声を出した。


「白紙じゃないか、馬鹿者っ!」


目の前でわめき散らす担任に冷めた視線を向けながら、涼は思う。
錯乱したんじゃねぇのかこいつ。


たかが紙切れ一枚にムキになって、恥ずかしくないんだろうか。


それでも担任は顔を真っ赤にさせたまま、半狂乱で叫ぶ。


「この、クズが!」


狂ったように怒鳴る姿は、同情を誘うぐらいにみっともない。


喉に込みあがってくる失笑をかみ殺すと、涼は平然とした態度で、大げさな溜息をつく担任を見下ろしていた。
< 93 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop