赤い狼と黒い兎
「いつになく険しい顔だな、馨」
車の後部座席に乗り込むと、ミラー越しにそう言ってきた。
『……なぁ、青夜』
「ん?」
青夜はゆっくりと車を発進させた。
あたしはパソコンをカタカタやりながら話し掛ける。
『……もし、また誰かが“瑠衣”みたいに…なったら、…どうしよう…』
「!!」
その時信号が赤で止まり、車内は静寂に包まれる。
…あ、しまった…。
言い終わってから、そう気付く。
恐る恐る顔上げて見れば、青夜はにこりと笑った。
「“もし”とか“また”とかねぇよ。あんな事、もう二度と起こさねぇ…起こさせねぇ。そう誓ったろ」
『………そう、だね…』
目を伏せて笑いもう一度、パソコンを見た。
「…で、1つ聞くが。瑠衣が出てくるっつー事は、アイツか?」
『……ああ。まだ確信は無いが、時期的に、な…』
あたしはそう言い、青夜は「そうか」と小さく呟いた。
『琉樹に違うパソコン渡しといて』
「わかった」
『あと、1週間くらい学校休むからよろしく』
「わかっ…ってオイ!マジかよお前…!」
いつの間にか着いた家の真横に車が横付けされ、青夜は後ろを振り向いた。
『?…マジだよ』
「亜稀羅、大丈夫か?春架とか…」
『ああ。無視だよそんなん』
「……亜稀羅の奴、不機嫌になるだろうなぁ…」