水に映る月
 

目の前を、リヤカーを引いたホームレスが通り過ぎて行く。

理由のない怖さを感じて、あたしは体を背けた。


ケータイの時計表示は2時。

約束の時間から二時間が過ぎた。


待ち受け画面に、手を繋いで並ぶ二人が映っている。

あたしは、その画像を見つめていた。



─ きっと来る‥


  必ず来てくれる‥



コートのポケットに突っ込んでいる右手も、ミニワンピから伸びた足も、ブーツの中の足先も‥。

全部が冷たくなってる。


メールをすることも、電話を掛けることも怖かった。



もし、返事が届かなかったら‥



そう思うと、とても怖かった。


 
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