遠吠えクラブ
 ホワイトソースはやがて、艶やかな照りとともにふんわりとふくらみ始めた。
 よし、今日のムサカも絶品だ。口に入れた時のみんなの至福の表情が目に浮かぶ。
 さてそろそろ、牛蒡チップスを揚げなければ。あれは簡単なわりにみんなにひどく受けがいいから、思い切って多めにつくったつもりでも、いつも「足りない」と文句が出てしまう。
ピーラーを縦にすべらせると、牛蒡はたちまちリボンのようにひらひらとこぼれ落ち、中に閉じ込められていた土っぽい甘い香りがぱっと広がる。美夏はそれを胸いっぱいに吸い込んで、目を閉じた。料理の手順ひとつひとつに

「うーーんこの香り」
「このジュッっていう音がたまんないのよ」
とうっとり陶酔してしまう自分のことを、料理嫌いの羽純などは「ビョーキ」と呆れているのだが、でも病気でもつくづく幸せな病気ではないかと美夏は思う。

 美夏のストレス解消法は、野菜の千切りだ。それも人参とかオクラとか、千切りしにくいものほど効果大なのだ。そこで今のモヤモヤする気持ちを吹っ切るために、急遽、千切り人参の沖縄風炒めをメニューに加えることを思いついた。固くて切りにくい人参を、マッチ棒くらいの太さに均一に切るのはかなり難しい。包丁の均一なすべらせ方だけに気持ちを集中させると、さっき頭に浮かんだ不吉な恐れが本当に馬鹿みたいに滑稽に思えて、笑いがこみあげてくる。

 
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