遠吠えクラブ
 ふと美夏は顔をあげて、まわりを見渡した。

 一人暮らしが長く、使い込まれた夫のキッチンにはさんさんと午後の日がさしこんで、庭のグリーンはみずみずしく照り映えて、暖かく居心地がよくて、もうすぐ気のおけない友達が集まる。そして私は、みんなの歓声を思いうかべながら、自慢料理の準備をしている。

 夫(そりゃ見た目は地味でパッとしないが、性格は抜群)は、せっせとリビングルームに掃除機をかけている。家電製品マニアなので、精魂こめて選んだ洗濯機も掃除機も、自分以外の人間には決して触らせない。お陰で美夏は好きな料理にだけ専念できて、毎日大助かりだ。

 こんなに幸せな私がまさか、殺されるなんて。

 そう、二人とも私にちょっぴり嫉妬しているに違いない。だからあんなことを言ったのだ。だって「遠吠え倶楽部」の中で今、完璧に幸せなのは、私だけだもの。 
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