ETERNAL CHILDREN ~永遠の子供達~

 帰りがけの吹き抜ける風は、いつもより冷たかった。
 マナは気づかなかったが、かつてこの地には冬が存在したのだ。
 空から白い粉雪が降りてきて、視界の全てを白銀に染める。
 そんな失われた季節の名残をかすかにだが思わせる、冷たさだった。
「寒い…」
 身を震わせて、マナは中へ入った。
 長い廊下を抜けて階段に歩を進めた時、マナは踊り場に立つフジオミの姿を認めた。
「――」
 今はフジオミとも話したくなかった。
 マナは俯いたまま階段を上り、フジオミの前を通りすぎる。
 
「二人で、一緒に戻ろう、マナ」

 静かに背後に響く声。
 マナはゆっくりと振り返った。
 さほど狭くもない踊り場で、フジオミの眼差しとぶつかる。
「フジオミ」
「これ以上彼とここにいても、つらいだけだ。君には義務がある。責任がある。僕等はいわば運命共同体だ。決められた義務から決して逃れることはできないんだよ」
 そう言うフジオミは、無感動な口調の中に、どこか痛みを宿しているようにも思えた。
 彼もまた、どうしようもない運命に縛りつけられたような。
「あたしは、いけないわ。ユウと約束したもの。ずっと一緒にいるって。何があっても、彼といるの」
「一緒にいても、苦しいだけだよ」
 視界がかすんで、フジオミの輪郭がぼやけた。

「でも、会えなくなるよりいいわ。一緒にはいられるもの。一緒に、いたいんだもの。あなただって、そうでしょう…?」

 涙が、マナの瞳から溢れる。
 堪えきれない痛みが沸きあがるのを、止められなかった。
 胸が、痛いのだ。
 痛くて、苦しくて、つらくて。
 でも、つらくても、いつか慣れる日が来るかもしれない。
 穏やかに、また前のようにユウと過ごせるかもしれない。
「――」
 声を殺して泣くマナを、フジオミは優しく抱きしめた。
 そうしてマナが泣きやむまで背中を撫でていた。


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