ETERNAL CHILDREN ~永遠の子供達~
「おじいちゃんの言ったとおりね。世界は、とても美しい色で溢れているわ。空も雲も土も草も花も、みんな美しい色で満ちている。
ねえ、ユウ。あたしがドームの中で見たたくさんのものの中で、これほど美しいと思えるものはなかった。
きっと、人間の作るどんな人工物も、自然の成し得る造形には適わないんだわ」
世界は美しい。
それに気づかずにいるのは、とても淋しく、虚しいことだ。
「人間って、あんまりいいことしてなかったのね」
「マナ?」
「だって、おじいちゃんも言ってたわ。
この世界では、人間だけが異質なんだって。人間がたくさんいた頃は、世界はとても病んでいた。やがて、この地上から一人も人間がいなくなったとき、そのときこそ、世界は一番美しいだろうって。
あたしたちって、本当はそんなに大事じゃないのよ。
この世界にとっては、いなくてもいい存在なんじゃないかしら」
「そうかもな。でも、俺は、マナがいてくれてよかったよ。おじいちゃんがいてくれて幸せだった。マナはどう?」
「もちろん、あたしもよ。ユウとおじいちゃんがいてくれて、とても幸せよ」
「それでいいんじゃないかな」
「え?」
「世界にとって必要じゃなくたって、別にいいんだよ。
自分が大事に思える人がいて、その人から大事に思ってもらえれば、それだけで、俺はいいと思うんだ」
「世界にとって、異質でも?」
「世界にとって、異質でも」
「他に何の意味もなくても?」
「他に何の意味もなくても」
マナはユウの答えに戸惑った。
「――よく、わからないわ。だって、そんなこと言った人、誰もいないもの」
「マナ。別に、俺の考えが本当だとか、絶対だってことじゃないんだ。
ただ、俺はそう思ってるって、それだけだ。
マナが無理にそう思う必要はないんだ。
俺もマナも、違う考え方をする。
それと同じで、みんなが同じ考えじゃなくてもいいんだよ」
「本当? 本当にそれでいいの?」
「だってマナ、ここにいるのは俺達だけだろ? 他の誰の許しがいるのさ」
「だって――」
ドームの話はしたくなかった。
ユウがそれをいやがるのがわかっていたからだ。
「ここはドームじゃないよ」
だが、意外にもユウは笑っていた。
「ユウ?」
「ドームでは許されないことだって、ここにいればそんなの関係ない。
ドームにはドームの考えややり方がある。ここでは、ここの考えややり方がある。
おじいちゃんはそう言ってくれたよ。
俺はおじいちゃんの考え方ややり方が好きだ。だから、好きな方をとる。
さ、もう帰ろう――」
山を下りきるまで、二人は無言だった。
ユウはユウで、マナはマナで、全く別のことを考えていた。
次の会話までじっくりと自分の考えを整理してから再び唐突に会話をすることはよくあることだったので、二人は気にもとめていなかった。