ETERNAL CHILDREN ~永遠の子供達~
次の日もマナは老人とともに時間を過ごしていた。
ユウはいつも食事が終わると約束のように地下に姿を消す。
マナはそれを、今でもずっと不思議に思っていたのだが、やはり口にすることはなかった。
それに、ユウのいない間に老人の話を聞くことが、マナにとっては楽しみになっていたからだ。
「今日は、海の話をしよう」
「うみ?」
「そう。この地球の表面の大部分を占める太古からの水だ」
「知ってるわ。塩分を多量に含んでいるんでしょ? だから塩辛いって。青いのよね?」
「ああ。とても美しい色をしているよ。マナにも見せたいね。あの美しい海の色を」
マナを見ていながら、老人の瞳は、どこか別の――そう、マナのまだ見たことのない海を見ているのだろう。
老人はマナに話して聞かせるとき、よくそんな遠い瞳をするのだ。
マナは正直、それが羨ましかった。
老人の感情を読むことはできるが、見えないものを見ることはできなかったからだ。
「初めて地を覆う濃く青い水を目のあたりにしたとき、涙が出たよ。こんなにもすばらしい光景が、あっていいものかと。
私達の住む星の、なんと美しいことか。
よせてはかえす波のさざめきが、どこまでも続く海。わたる風さえ、命の鼓動をはらんでいた。私の生涯の中で、あれほど美しいものを見ることは、きっともうないだろうなあ」
食い入るように見つめているマナに気づいて、老人はそっと笑ってマナの頭を撫でた。
「今度、ユウに連れていってもらうといい。あの子の力ならば、すぐだ」
「本当?」
「ああ。きっとマナも感動するよ。涙が出るほど、綺麗だと思うさ」
「だといいんだけど」
マナは正直言って、そのように感じられるか自信がなかった。
老人の目と自分の目は、いつもどこかが違うのだと思えてならなかった。
遠い瞳をして、そこにはないものをとても幸せそうに見る老人の目は、きっと、自分とは比べものにならないほど美しいものを感じられるのだと。