久遠の花〜 the story of blood~


「大事なモノを壊した経験って……あります?」


 いつもと変わらない表情。

 けれどその時の声はいつもと違い、どこか儚げな色を帯びていた。





「…………」





「…………」





 長い、長い沈黙。

 先に動きを見せたのは――青年からだった。


「進んでではありませんが……ありますよ。とても大事な人を、この手でね」


 軽いため息をつきながら、雅の問いに答えた。


「……そうですか」


 それ以上、雅は何も聞かなかった。お互いになにかを感じたのか、そのことには深く触れないまま、雅は部屋を出て行った。





「――壊す、か」





 資料が散乱する部屋に行き、青年はため息混じりに言う。

 何を思い出しているのか。

 机に置いてある物を手に取ると、それを名残惜しそうに、両手でそっと包み込む。





「――渡す日が、来たのですね」





 それが嬉しいような、悲しいような。

 青年の瞳は、暗い色を宿していた。

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