久遠の花〜 the story of blood~


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「いい子に育ったようだな――葵(あおい)」





 椅子に腰掛けるなり、蓮華は隣にいる男性――美咲の祖父に話しかけた。


「大事に育てているのがよく分かる。さぞかし、溺愛しているのだろうな?」

「溺愛、かは分かりませんが――まあ、それなりに」


 葵は嬉しそうに、目を細めながら笑みを浮かべる。


「あなたから託されたからではなく、本当の子供のように育ててますから」

「そこは心配などしておらぬ。お前たち二人ならと思い託したのだ。――ある意味、それが【罰】でもあったがな」

「何を言いますか。これは罰とは言いません。――私たちは、幸せな時間を頂きました」

「そう思っているのならよいがな。――咲の最後は、どのようなものだった?」


 明るかった口調が、暗いものへと変わる。神妙な面持ちになる蓮華に、葵の口調も、何処か引きしまったものに変わった。


「〝普通〟、でしたよ。人が死ぬのと同じ。普通に歳を取り、普通に体が衰えていく。――〝人として〟生をまっとうしました」

「――――〝人として〟、か」

「えぇ。それがあなたたちからすれば、一瞬の命だというのは分かっています。ですが――私たちにとっては、本当に幸せな時間だったのですよ?」


 尚一層目を細め、笑顔を浮かべる葵。その表情に、蓮華も口元を緩めた。


「こうものろけられるとはな。――幸せに過ごせたのならよかった」

「私たちのことより、今はあの子のことを……」

「……あぁ、分っている。うろついているのがいるようだが、手出しさせないよう注意をはらっておこう。一応は私の子だ。そう簡単には連れて行かれまい。――先程近付いて分かったが、術の耐性も少しはあるようだしな」

「木葉(このは)さんにも言いましたが、どうか、よろしくお願いします」

「…………木葉?」

「? 目覚めたばかりで忘れましたか? あなたのそばにいるもいる男性ですが――」


 自分の近くにいる? 確かにいつもいる者はいるが、その者は別の名前のはず――。


 考え込む蓮華。なかなか思いだせないのか、葵にその者の特徴を聞いた。

 耳が隠れる程度の長さをした、黒髪の若い男性。瞳は焦げ茶色で、蓮華に使える立場だというのに、いつも意見を述べる(どちらかと言えば叱るが近い)人物だと言う。


「――――あいつか」


 どうやら最後の説明で、誰なのか分かったらしい。

 自分に意見する者など一人しかいない、と確信を持っているようだ。


「そういえば、本当の名は捨てるとかどうとか言っておったな。――なるほど。今は木葉と名乗っておるのだな」

「まだお会いになってなかったのですか?」

「あぁ。珍しいこともあるものだ。目覚める時は必ず、犬のようにそばにいるくせにな。おそらく、お前の家や周辺を調べているのだろう。あいつは病的なほど仕事熱心だからな。――さてと」


 そろそろ戻る、と言いながら蓮華は立ち上がる。
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