久遠の花〜 the story of blood~
「静か、だよねぇ――」
今日が休みというのもあるけど、お寺の人通りはかなり少なく、境内に入ってからまだ誰とも会っていない。別に怖いってわけじゃないけど、最近自分に起きていることを考えると、つい、嫌なことを考えてしまう。
しばらく歩くと――うちのお墓の近くに立つ、緑の和服姿の人が見えた。近付いていくにつれ、それが女性だというのがわかる。そして更に近付くと、女性が立っているのは、うちのお墓の前だった。
「――――両親の知り合い、ですか?」
ぱっと見、二十代前半に見える若い女性。だからおばあちゃんよりも、両親と関係があるんじゃないかと思った。
「――いや。両方とだな」
そう答える女性は、同性でも見惚れてしまうほど、綺麗と凛々しさを兼ね備えていた。
艶やかな黒髪は、肩できっちりと添えられ。大きな黒い瞳が、とても印象的だった。
「私は蓮華(れんか)。お前の名は?」
「わ、私は――美咲、と言います」
「美咲? 祖母の名前から取ったのか?」
「そうみたいです」
「となると、付けたのは祖父か?」
「はい。おじいちゃん、おばあちゃんのことが大好きで、私にもおばあちゃんのような優しい人になるようにって」
「ふふっ、そうか。――あいつが考えそうなことだな」
「考えそうなって、なにがですか?」
「いや、こちらの話だ。月命日に通っているとは聞いていたが、本当に通っているのだな」
「はい。とは言っても、私は学校が休みの時だけなんですけど」
「それでも素晴らしいことだ。最近では、一年に一度でも参るか分らないような家族もいるのだからな。――今日は、一人で来たのか?」
「いえ、おじいちゃんもいますよ。疲れたみたいなので、今は休憩してます」
「なら帰る前に、挨拶でもしておこう。――では、いずれまたゆっくりと」
話を交えような、と言い残し、女性は優雅に立ち去る。
それに私も挨拶を返し、去って行く後ろ姿を、しばらく眺めていた。