久遠の花〜 the story of blood~
「遠い過去……貴方は、それを見なくてはいけない。もっとも、勝手に見えてしまうでしょうけど」
「勝手に……? どうしてそんなこと」
「今は、時間が無いわ。また会えるか分からないし――これを」
女性は目の前に、なにかを差し出す。おそるおそる受け取ると、それは小さな石の付いたブレスレット。それを右手に付けててね、と女性は言う。
「それが、証拠になるから。――エルに見せてね?」
「証拠って言われても。それに私は、エルなんて人――?」
知らない、と口にしたはずの言葉は音になることはなく。、また、目の前の景色が揺らいでいった。途端、このままでは女性と話せなくなると理解した。思わず手を伸ばしたものの、それが届くことはなくて……景色が、全て消えてしまった。
―――――――――…
―――――…
――…
――――揺れ、てる?
左右に揺れる感覚。ゆっくり目を開けて見れば、微かに、人の形が浮かんでいた。
「美咲ちゃん?――オレが、わかる?」
低い音声が聞こえる。
何度か瞬きをすれば、そこにいたのは――。
「――――みやび、さん?」
なぜか、私の手を握る雅さんの姿があった。
「よかったぁ。電話かかったと思ったら、なにもしゃべらないからさ。――強引に侵入しちゃった」
ごめんね、と苦笑いを浮かべ、雅さんは言う。
握られていない手を見れば、そばには携帯が。見ると、私は確かに、雅さんに電話をかけていた。
「それで? なにがあったの?」
手に、少し力が込められる。それだけ心配しているのか、私を見つめる眼差しは、とてもやわらかなものに感じた。
「え、っと……特に、なにも」
多分、寝惚けてかけただけだと思うけど。
「すみません。こんな夜中に来てもらったのに、なにも無いだなんて」
「な~んだ。ってきり添い寝でもしてほしいかと思ったのに」
にやり、と笑みを見せたかと思えば、もう片方の手も、素早く握られていた。