久遠の花〜 the story of blood~
「貴方に処方している薬のほとんどは、実は彼等を――王華や雑華など、人ではなない者たちを惹きつける匂いを抑える物なのです。治療用の薬もありますが、それも全て、絶ってほしいのです。
もちろん、それに伴う痛みはあります。ですが、これは貴方にとって必要なことです。そうすれば――貴方にももっと、人並の生活をさせることが出来ます」
〝人並みの生活〟。それは、私が一番望んでいること。でも、薬を絶ってしまったらどうなるんだろうという不安が、頷くことを躊躇(ためら)わせた。
「…………」
「――少し、急ぎ過ぎましたね」
すみません、と先生は謝罪する。
「いくらなんでも、話を聞いてすぐには決断出来ませんよね。――急ぐことはないので、貴方が出来ると思った時、言って下さい」
立ち上がると、先生は懐から薬を取り出す。それをテーブルの上に置くと、ニコッとやわらかな笑みを見せ、病室から出て行った。
一人残った私は、再び、天井を仰ぐ。
痛みがあると言っていた先生の顔は、なんとも言えない辛そうな表情をしていた。だからきっと、痛みは今まで体感したことが無いほどのものなんじゃないかって。
――――それでも。
私の中で、もう答えは出ている。だから――。
テーブルに置かれた薬に、視線を向ける。やるなら今。決意したその時からやるべきだと、私は、薬を断つことを決めた。